明快な色合いとホットケーキを焼くシーンが印象的な『しろくまちゃんのほっとけーき』は1972年に出版されてから、50年近く経つ今も子ども達に大人気の作品です。
わかやまけんさんという方が絵を描いているのですが、この絵本には他に3人の方が関わり、ちゃぶ台の上でお話が生まれたというのをご存知でしょうか?
今回は累計200万部を越える『しろくまちゃんのほっとけーき』が長年愛される秘密や誕生秘話、絵本のあらすじ、内容など保育士の私から詳しくご紹介させて頂きます。
『しろくまちゃんのほっとけーき』の作者は?
『しろくまちゃんのほっとけーき』の作者はわかやまけんさんです。わかやまさんは1930年、岐阜市に生まれ、絵本に関わる以前はグラフィックデザインの仕事をされていました。その後、童画界へと入り、教科書や絵本の絵を担当するようになったという経緯があります。
また、本人の遺志によって伏せられていましたが、2015年に既に亡くなっています。奥様いわく、持病であるパーキンソン病が悪化する70歳頃までは執筆活動を続けられていたそうです。
作品に関しては、日本の美しい情景が描かれた『きつねやまのよめいり』で、産経児童出版文化賞を受賞されている他、国際的な展覧会にも出展されています。
『こぐまちゃんえほん』シリーズ以外にも『おいしいね おいしいよ』『おっぱい おっぱい』『おんぶにだっこ』などの絵本作品があり、わかやまさんの作品は累計で約954万部を記録しています。
作者は実は4人!こぐまちゃんシリーズに携わった人
『しろくまちゃんのほっとけーき』を始めとする『こぐまちゃんえほん』シリーズは、作者の名前として絵本に載っているのはわかやまさんですが、他に3人の方が絵本作りに携わっています。
まず、文章を考えたのは『はらぺこあおむし』の訳をしたことでも有名な教師で歌人だった森比左志(もりひさし)さん、話の展開を考えたのは児童演劇の劇作家をされていた和田義臣(わだよしおみ)さんです。
そして、編集を担当したのは佐藤英和(さとうひでかず)さんです。佐藤さんはこぐま社の創始者で、わかやまさんの作品『きつねやまのよめいり』で使用される美しい色に感動し、わかやまさんにこぐまちゃんシリーズの絵を描いてもらうことを決めました。
マンションの一室、ちゃぶ台の上から絵本が生まれる
『こぐまちゃんえほん』シリーズを制作する頃、こぐま社は小さなマンションの一室にありました。そして、そのマンションにあるちゃぶ台の上で、4人が話し合い、数々のお話が生まれました。
お話ができるまでの過程は、森さんが原案を考え、それに合わせてわかやまさんが絵を描き、4人で展開を考えていくというスタイルだったそうです。
4人が合格点を出して初めて絵本として出版されるため、何十回も議論を重ねたと言います。
『しろくまちゃんのほっとけーき』のアイデアは育児スケッチから
『しろくまちゃんのほっとけーき』のヒントになったのは、わかやまさんの育児スケッチです。
4人が『こぐまちゃんえほん』シリーズを作る頃、ちょうどわかやまさんにお子さんが生まれたそうで、育児スケッチをつけて欲しいと3人がお願いし、
「息子さんが、2、3歳になった頃かな。お母さんがホットケーキを焼いているところを息子さんとその友達がジーと見ていることがあって、「これだ!」って思ったそうですよ。(※1)」
と、佐藤さんが当時のことをお話されています。
時代が変わっても愛される絵本の秘密
『しろくまちゃんのほっとけーき』は今読んでも全く古びた感じがしない不思議な絵本です。それには、長く読まれるための秘密が隠されています。
例えば、『こぐまちゃんえほん』シリーズで使われる色は、赤・青・黄のような原色ではなく、橙や黄土色など日本独特の中間色が使用されています。
わかやまさんが言うには「日本の風景には原色はない」(※2)のだそうで、そのこだわりが絵本に活かされています。
また、こぐまちゃんのフォルムや洋服は時代を感じない普遍的なデザインを採用しています。
言葉にも細心の注意が払われ、
「「ベーキングパウダー」や「フラワー」という言葉を、私たちももちろん知っていました。でもそこはあえて「ふくらしこ」「こむぎこ」としたんです。(※1)」
と語られるように、時代に左右されない美しい言葉を採用しています。
『しろくまちゃんのほっとけーき』の対象年齢、シリーズ、魅力を詳しく紹介
ここからは『しろくまちゃんのほっとけーき』のあらすじや対象年齢、シリーズ、保育士から見た魅力など詳しくご紹介していきます。
『しろくまちゃんのほっとけーき』のあらすじ
しろくまちゃんはお母さんとホットケーキを作ります。フライパンとボール、大きなお皿を揃え、材料は小麦粉、お砂糖、卵、膨らし粉…ボールの中に材料を入れて混ぜるのは大変です。
混ざったらフライパンで生地を焼いていきます… という感じで進んでいくのですがこれくらいにしておきます。
ホットケーキを焼くシーンは子ども達が大好きなシーンで、何回読んでも釘付けになってくれます。
『しろくまちゃんのほっとけーき』の対象年齢は
出版元であるこぐま社のHPを確認したところ「0歳から3歳ごろまで」と記載されていました。
『こぐまちゃんえほん』シリーズを作る時に、わかやまさん達はこぐまちゃんの年齢を2歳に設定し、そのくらいの年齢の子どもを読者対象とした(※1)とお話されているので、やはり2歳前後のお子さんが合っていると思います。
『しろくまちゃんのほっとけーき』の読み聞かせの所要時間は
私が実際に読んでみたところ、約2分でした。文章は非常に短いのでゆっくり読んでも3分以内に読みきれると思います。
『しろくまちゃんのほっとけーき』のシリーズ
『しろくまちゃんのほっとーけき』はわかやまさんの作品『こぐまちゃんえほん』シリーズで、全部で15冊あります。
<『こぐまちゃんえほん』シリーズ>
- 『こぐまちゃん おはよう』
- 『こぐまちゃんとぼーる』
- 『こぐまちゃんとどうぶつえん』
- 『こぐまちゃんのうんてんしゅ』
- 『こぐまちゃんのみずあそび』
- 『こぐまちゃん いたいいたい』
- 『こぐまちゃん ありがとう』
- 『しろくまちゃんのほっとけーき』
- 『こぐまちゃんとふうせん』
- 『こぐまちゃんのどろあそび』
- 『しろくまちゃん ぱんかいに』
- 『こぐまちゃん おやすみ』
- 『さよなら さんかく』
- 『ひらいた ひらいた』
- 『たんじょうび おめでとう』
余談ですが、最初に出版されたのが『こぐまちゃんおはよう』、最後だと考えて出版されたのが『こぐまちゃんおやすみ』です。
ただ、遊び歌とお誕生日を入れたいということで後の3冊が出版され、15冊で完結となりました。
『しろくまちゃんのほっとけーき』はどんな子におすすめ?
ホットケーキがメインになる絵本なので、食べることや料理に興味がある子におすすめです。
ページによっては擬音語がたくさん出てくる絵本なので、繰り返しの言葉を好む子にも喜んでもらえると思います。
また、個人的な主観ではありますが、男女差をあまり感じない絵本でもあるので、プレゼントにも最適です。
保育士が考える『しろくまちゃんのほっとけーき』の魅力
『しろくまちゃんのほっとけーき』の魅力は、子ども達の変わらない興味を色褪せない作風で伝えていることが素晴らしいと思います。
大人の本と同様に絵本にもやはり流行があります。絵や作風の雰囲気、メッセージ性、色の使い方、話の展開などどうしても流行っているものに流される傾向は避けられないと感じることが多いのです。
しかし、『しろくまちゃんのほっとけーき』は子どもの強い興味と長年愛されるかどうかという視点で作品作りがされているため、何年経っても安心して子ども達に読むことができます。
その「変わらない安心感」こそが『しろくまちゃんのほっとけーき』の魅力だと私は思います。
大人気のこぐまちゃんえほんシリーズ、色褪せない作風には静かな情熱
今回はわかやまけんさんの作品『しろくまちゃんのほっとけーき』を詳しくご紹介させて頂きました。
私がこの絵本を初めて手にしたのは大学に通っている頃でした。
保育実習で使える絵本を大学の図書室で探していて “最近の絵本かな?”と手にしたところ出版が当時で40年近く前だったので、とてもビックリしたことを覚えています。
その時はここまで作品について深く掘り下げる機会はなかったですが、改めて調べてみてわかやまさん達がこの絵本に込めた想いを知ることができました。
発売から約50年経っても読み続けられるのは、わかやまさん達の静かな情熱が宿っている証拠なのだと思います。
今まで読んだことがない方も、読んだことがある方も作品の背景を知るとまた違った見方ができるかなと思います。もし宜しければ手に取ってみて下さい。
参考資料)
※1 『しろくまちゃんのほっとけーき』40周年記念
こぐま社相談役 佐藤英和さんインタビュー
https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents.asp?id=38&pg=1
※2 「こぐまちゃんえほん」担当編集者・佐藤英和さんが語る
https://mi-te.kumon.ne.jp/contents/article/32-4546/
※3 こぐま社
https://www.kogumasha.co.jp/