「お菓子を買ってほしいとスーパーの床でひっくり返って怒る」「公園や児童館で帰らないと泣きわめいてしまう」「毎日のように癇癪を起こされて子育てがしんどい」
幼児期の子供によく見られる行動に「癇癪」があります。自分の思い通りにならなかったり、やりたいことと違ったりすると、床にひっくり返って怒ったり、「イヤー!」と激しく拒否をしたり大泣きする行動です。
子供によっては親や先生を叩いてしまうこともあるので「私の愛情不足なのかな…」「もしかして発達障害かもしれない」と悩んでしまうお母さんも多いです。
ですが、癇癪は子供にとっては成長過程の一貫であり、珍しいことではありません。周りの子と比較して不安になることもあると思いますが、子供の発達や成長は個人差が大きいものです。
今回は子供の癇癪の原因や具体的な対策、親にできることなどを保育士の私からお話していきます。
子供の「癇癪」ってどんなもの?
「癇癪」と一口に言っても、子供によってその行動は様々です。具体的な行動としては以下のようなものがあります。
<子供の癇癪>(※1)
- 床にひっくり返る、泣き喚く、暴れる
- 物に当たる、投げる、壊す
- 周りの人を叩く、攻撃する
例えば、スーパーなどでお菓子を買ってもらえなくて大声で泣いたり、公園から帰る時間になっても「帰らないー!」と泣き叫んで手がつけられないこともあります。
子供の癇癪は分かりにくいけど理由がある
子供の癇癪はどこでスイッチが入ってしまうか分からないことも多いと思いますが、ほとんどの場合は子供なりの理由があります。
<癇癪の理由>(※1)
- 【注目】…親の注目を引きたい、自分に構って欲しいなど
- 【要求】…特定の物が欲しい、ある行動を行いたいなど
- 【拒否】…何かを止めたい、場所を避けたい、嫌な気持ちを伝えたいなど
例えば、お菓子やおもちゃを買ってほしくて泣くのは要求、遊んでいる自分を見てくれなくて泣くのは注目、公園や児童館から帰りたくないというのは拒否になります。
また、「あそこにあるものが欲しいけど怖くて近づきたくない」などいくつかの理由が組み合わさっていることもあります。
子供が癇癪を起こしてしまう原因3つ
子供が癇癪を起こしてしまうのはなぜなのか、それには大きく分けて3つの原因があります。
(1)言葉にすることができない、自分の気持ちが分からない
幼児期の子供は言葉が十分に発達していないため、自分の気持ちを言葉にすることができません。何かに対して「嫌だ」と感じていても、それを表現する言葉をまだ獲得していないことが多いです。
また、言葉を多く獲得していても自分の気持ちをきちんと整理できないこともあります。自分がどうして嫌だと感じているのかがはっきりと分からないのです。
大人でもモヤモヤした気持ちになって「どうしてこんな気持ちになるんだろう…」と説明できないことってありますよね。
誰かに相談して初めて「私はこれが嫌だったのか」と気付くことがあると思います。
幼児期の子供はこうした場面が多いため、それによって慢性的にストレスが溜まり、上手く伝えることができない結果、癇癪に繋がってしまうのです。
(2)自分が思うように行動できない
子供の癇癪はおおむね1歳半前後から始まることが多いです。自分で歩けるようになり、行動範囲が広がることで様々なことに興味が出て「やってみたい」という気持ちが強くなります。
しかし、幼児期の場合は運動機能だけでなく、物理的にできないことも多いものです。やりたいと思っても危険なことは大人から制限されるので「常に自分が思うように動けない」状態にあります。
大人でも入院して体が不自由な状態にあったり、外出を制限されたりするとものすごくストレスが溜まりますよね。
幼児期の子供達は、ある意味毎日そういう状態を経験していているので癇癪を起こしてしまうのです。
(3)成長に必要な睡眠や栄養が足りていない
先に述べた二つを満たしていても癇癪を起こしてしまう場合は、生理的欲求が満たされていないことが考えられます。成長に必要な睡眠や栄養が不足しているとイライラしやすくなり、癇癪を起こし易い状態になります。
大人でもお腹が減ってイライラすると効率が落ちたり、睡眠不足によっていつもより怒りっぽくなることがあると思います。
幼児期は脳も体も非常に活発に動かしているので多くの睡眠と栄養が必要です。生活リズムの乱れや食生活の偏りが癇癪の原因になっている場合もあるのです。
子供の癇癪を防ぐために気をつけたい4つのこと
癇癪は一度起こすとなかなかおさまらないので事前に防ぐようにした方がお母さんの負担も軽くなります。ここでは癇癪を防ぐために気をつけたいことを4つお話します。
(1)子供が自分の気持ちを言葉にする練習をする
幼児期は「楽しい」「嬉しい」という気持ちになってもその気持ちを当てはめる言葉が分かりません。気持ちを言葉にするには練習が必要です。
子供が楽しく遊んでいたら「楽しそうだね」と声をかけ、泣いている時は「悲しかったんだね」「寂しかったんだね」と共感する言葉をかけてあげましょう。
周りの人からの語りかけによって子供は“この気持ちはこれなんだ”と認識していくようになり、自分で気持ちを表現できるようになっていきます。
また、ある程度言葉を獲得していて気持ちを表現できない時は、心のお天気予報を作ってあげるのがおすすめです。
紙に怒っている顔、泣いている顔、笑っている顔、困っている顔などを描いて今どんな気持ちなのか子供に指し示してもらうのです。
自分の気持ちを可視化できるようになると、その気持ちを言葉にするきっかけができます。自分の気持ちを言葉にできると癇癪という行動を起こしにくくなるので、ぜひ試してみて下さい。
(2)遊びを充実させて体や手先をしっかりと動かす
子供は自分の思うように体を動かすことができないことでストレスが溜まっています。このストレスを解消するためには体や手先をしっかりと動かすことが大切です。
遊びは体を動かす訓練と捉え、たっぷりと時間をとってあげましょう。特に手は「第二の脳」とも言われ、脳と繋がる神経が非常に多くあります。手を使う遊びを充実させてあげるようにしましょう。
また、脳は同じことばかりしていると刺激を受けにくくなります。頻繁に使っているおもちゃを片付け、あまり使っていないおもちゃと交換するだけでも子供には良い刺激になります。
そして、時間がある時は外で遊ばせてあげましょう。毎日同じ公園に行くよりも、日替わりでいくつかの公園を回る方が遊びに幅が生まれ、体の色々な部分を使うようになりおすすめです。
体を思うように動かせるようになると、自分でできることが増え、癇癪を起こしにくくなります。
(3)幼児期の睡眠は10時間以上の確保を目指す
十分な睡眠を確保することは脳のイライラを抑え、気持ちをコントロールする上で非常に重要です。
脳は眠っている間に情報の整理を行っています。必要のない情報を消し、脳の中の老廃物を無くして、リフレッシュさせているからです。
大人に比べると幼児は脳の活動が活発なため、整理にも多くの時間を要します。そのため相対的に、子供は睡眠時間が大人よりも長くなります。
アメリカ国立睡眠財団が論文で発表した推奨睡眠時間は1~2歳が11~14時間、3歳~5歳が10時間~13時間です。(※2)
日本の子供の睡眠時間は世界的にもかなり短いと言われています。兄弟や親の都合などもあるとは思いますが、一定の睡眠時間を確保できるように生活リズムを整えましょう。
(4)食事は「精神を安定させる」+「イライラを抑える」栄養を
心のバランスを整えるには「セロトニン」と「ドーパミン」の分泌を促し、「ノルアドレナリン」を抑えると効果的です。(※3)
セロトニンは幸せホルモンと呼ばれていて感情をコントロールするホルモンです。ドーパミンはやる気や満足感を得るために大切な物質で、意欲的に何かに取り組むために欠かせません。
この2つの分泌を促すサポートをするのは、「トリプトファン」と「亜鉛」です。トリプトファンは必須アミノ酸の一つで乳製品や大豆製品、魚や卵に多く含まれています。亜鉛は牡蠣やレバー、卵、乳製品、鶏肉などに含まれています。
これに対し、ノルアドレナリンは怒りのホルモンと呼ばれ、ストレスや気持ちを高ぶらせる物質なので癇癪を起こし易くなってしまいます。
ノルアドレナリンを抑えるにはビタミンやミネラルを多く摂ることが有効です。
野菜の他にも、のりや青海苔はビタミンやミネラルが豊富に含まれていて、手軽に摂取しやすいのでぜひ食卓に加えてみてください。
子供の癇癪に対する親の具体的な対処法と注意点
事前に注意していても子供が癇癪を起こしてしまうことはあります。その場合の対処法と注意点をお話していきます。
(1)とにかく冷静に、安全第一
子供が癇癪を起こした時は、とにかく安全を確保して下さい。癇癪を起こしている場所が道路や駐車場等なら迷わずに子供を抱えて移動しましょう。
また、安全な場合でも親側が人目について嫌な気持ちがあることもあると思います。スーパーなど店舗の場合はトイレや車など落ち着いて話せる場所に移動しましょう。
(2)子供が落ち着くまで待って、気持ちに共感し言葉にする
子供が癇癪を起こしている最中は親の言葉も届きにくいものです。無理に泣き止ませようとせず、しばらく様子を見ましょう。
子供が落ち着いてきたら、子供の話を聞きながら子供の気持ちを言葉にしていきます。「お菓子が欲しかったんだね」「カートに乗りたかったんだね」と言葉にするだけでも落ち着いていく子も多いです。
また、こういった時はつい「お菓子食べるならご飯はなしだよ」「カートに登るならもう連れてこないよ」とマイナスな言葉になってしまいがちです。
気持ちはとてもよく分かるのですが「お菓子はないけど今日の晩ごはんは○○だよ」「カートじゃなくてお家でトミカしよう?」など子供の気持ちができるだけ前向きになるような言葉をかけて下さい。
(3)子供の気持ちに共感しても駄目な場合は「状況を変える」
気持ちに共感しても駄目な時は「今日はできないんだ、ごめんね」「今度にしようね」と話を終わらせて状況を変えるようにしましょう。
この「状況を変える」というのはかなり大切で、車に乗せたり、家に帰ったりすれば気分も切り替わりやすくなります。
ただ、この時に泣き止ませようとしてお菓子やゲーム等を渡してしまうと「癇癪を起こす→お菓子やゲームが貰える」という思考になってしまいます。
本当に時間がない時などを除いては使わないことをおすすめします。
(4)手が出たり、強く𠮟りそうになったらその場を離れる
癇癪は成長の一貫とわかっていても親にとっては辛いものです。毎日のように癇癪を起こされると親側もついカッとなってしまいます。
手が出そうになる、強く𠮟りそうになる時は子供の安全を確保してその場を離れましょう。親が冷静でいられないと子供の気持ちを察することや、言葉にする能力が低下してしまいます。
家の中ならトイレに篭ったり、別室に移動するのも有効です。とにかく冷静でいられない時は子供との距離をとりましょう。
(5)親側が辛い時は早めにリフレッシュ保育や専門機関に頼る
親が落ち着いて対処できないことが増えたり、手が出てしまったり、気持ちが爆発してしまうような時は「育児疲れ」のサインです。
精神的な危険にさらされていると判断し、早めに休息を取りましょう。
「私が我慢すればいいのに、この子がかわいそう…」と休息を取ることに罪悪感を覚える方もいると思いますが、親が体を壊したり、精神的に病んでしまったりする方が子供は辛い状況になります。
夫や家族に預かって貰えるなら1日子供を預けてリフレッシュしましょう。また、家族に頼れない場合は市町村が行うリフレッシュ保育制度や一時保育を利用するのがおすすめです。
「お金がかかってもったいない」と思う方もいると思いますが、時々そういった場所で預かってもらうことで子供にとっても良い刺激になります。
「子供の体験代+親の休息代」だと思って思い切って利用しましょう。
子供の癇癪は言葉と自分でできる力が身に付けば徐々に落ち着く
今回は子供の癇癪についてお話してきました。「癇癪」は大人から見ると理解しにくい行動でもあるので、イライラしたり、発達障害ではないかと心配したりしてしまいますが、子供の成長の一貫です。
私も娘が2歳の時は公園で帰ろうとするたびに癇癪を起こされてとても辛かったですが、今では4歳半になり、帰る時間になると嫌がる弟を連れて帰ってくれるようになりました。癇癪を起こした後、私にすがって泣いていたのが懐かしいと思えるくらいです。
子供が自分の気持ちが表現できるようになり、自分のことが自分の力でできるようになる5歳ごろになると、癇癪はかなり落ち着いてきます。
辛いことが多いとは思いますが、自分のことを自分で頑張ろうとしている証だと思って見守ってあげて頂ければと思います。
※1 子どもの癇癪(かんしゃく)とは?原因、発達障害との関連、癇癪を起こす前の対策と対処法、相談先まとめ
https://h-navi.jp/column/article/35026430
※2 頭のいい子にする最高の育て方 はせがわわか著
※3 子供の癇癪(かんしゃく)は食事が関係する?心を落ち着かせる食べ物
https://www.gymboglobal.jp/column/107-2