貼り絵の技法を使ったオバケとうさぎが印象的なせなけいこさんの絵本『おばけのてんぷら』は発売から40年以上が経つ今も子ども達から愛される作品です。
今回は保育士おすすめの絵本『おばけのてんぷら』の誕生秘話や主人公のモデル、あらすじや対象年齢などを詳しくご紹介します。
『おばけのてんぷら』作者「せなけいこ」さんはどんな人?
『おばけのてんぷら』の作者はせなけいこさんです。せなさんは1932年東京生まれ、お茶の水女子大学附属高等学校を卒業後、童画家の武井武雄さんに師事し絵を学びました。
そのため、絵本作家になる前は、瀬名恵子の名義で児童書の挿絵を描く仕事をされていました。
その後の1969年、38歳の時に『いやだいやだの絵本』シリーズ(福音館書店)で絵本作家デビューされ、1970年に同シリーズでサンケイ児童文学賞を受賞、『ばけものつかい』『おおきくなりたい』『ねないこだれだ』『おばけなんてないさ』など数多くの絵本を描かれています。
せなさんの絵本を通して使われる貼り絵の技法は、兄弟子の方から習われたものです。
絵の具などの道具を使わない技法は子育てをしながらでも制作しやすく、
「家庭で子どもを育てながら作品を作るには、貼り絵が一番良いわね」(※1)
と語っておられたといいます。
『おばけのてんぷら』の誕生秘話!めがねうさぎのモデルは息子さん
せなさんの絵本にはオバケがよく登場しますが、これは息子さんがオバケに夢中になった影響です。
息子さんが幼い頃、テレビで『ゲゲゲの鬼太郎』を見るのが大好きで、その頃からせなさんは日本のオバケが好きになったといいます。
そして同時に子ども達の「怖いけど見たい」「見たいけど怖い」というオバケへの興味も感じていたようです。
また、『おばけのてんぷら』絵本にはめがねをかけているうさぎが登場しますが、これも息子さんとの関わりが関係しています。
小学校2年生からめがねをかけることになってしまった息子さんが「めがねをかけることが楽しくなるように」という想いがあり、絵本で登場するうさぎにめがねをかけるようになったようです。
『おばけのてんぷら』の絵本は包装紙や封筒でできている!?
『おばけのてんぷら』の絵本は貼り絵の技法で描かれています。
貼り絵で作品を作るせなさんは、絵本制作のために非常にたくさんの紙をお持ちですが、画用紙以外は「何かに使われた紙」を使用されています。
お店のチラシやお菓子の包装紙、封筒の裏側など普通なら捨ててしまうような紙も大切に保管しておられるそうです。
絵本によってはアラビア語で書かれたホテルのパンフレットなども使用されていると言うので面白いです。
また、制作に使う道具は「子どもがお店で買えるものしか使わない」というポリシーがあります。そのため、絵本制作で使うハサミやのりも一般的に手に入る工作用のものを使用されています。
『おばけのてんぷら』は子育て体験から生まれた絵本
『おばけのてんぷら』では、主人公のうさこが揚げたてのてんぷらを食べる場面がありますが、これはせなさん自身の子育て体験が関係しています。
せなさんは夕食でてんぷらを作る時、揚げたてが美味しいので台所で揚げてすぐに子ども達と食べていたそうです。
その美味しくて楽しい体験をそのまま絵本にしたのが『おばけのてんぷら』だと言います。
ちなみに、せなさんが『おばけのてんぷら』を制作してからは、家でてんぷらを作る時はおばけのてんぷらも出していたというエピソードもお話されています。
当時のお子さん達は
「おばけの味がする」(※2)
と言って喜ばれたそうですが、一体どんな味がしたんでしょう(笑)
せなさんのチャーミングな一面が見えるお話です。
『おばけのてんぷら』あらすじや対象年齢などご紹介
ここからは『おばけのてんぷら』の絵本についてあらすじや対象年齢、読み聞かせの所要時間などをお話します。
『おばけのてんぷら』のあらすじ
食べることが大好きなうさこは、材料をたくさん買っててんぷらを作ります。てんぷらを揚げる良い香りは山のオバケの方まで流れてきて、おばけがうさこの家をのぞきにやってくるのですが…
と、全部話してしまいたいくらい楽しいお話なのですが、これくらいにしておきます。
うさこの家に着いたおばけはどうするのか、とっても面白い展開が待っているのでぜひ読んで頂きたいです。
『おばけのてんぷら』の対象年齢
出版元のポプラ社のHPを確認したところ「3歳、4歳、5歳」と記載されていました。
私は実際この絵本を娘が3歳の時に購入しました。その頃からとてもお気に入りの本で、4歳になった今でも楽しんでいます。
まもなく2歳になる息子にも読んでみましたが、最後までお話は聞いていられませんでした。
ですので、やはり3歳~5歳というのが妥当ではないかなと思います。
『おばけのてんぷら』読み聞かせの所要時間
私が実際に読んで4分半くらいでした。ですので、個人差はありますが、約5分で読みきれると思います。
『おばけのてんぷら』にシリーズはある?
『おばけのてんぷら』はせなさんの絵本の中で「めがねうさぎシリーズ」に該当し、全部で4冊あります。
<めがねうさぎシリーズ>
- 『めがねうさぎ』(1975年)
- 『おばけのてんぷら』(1976年)
- 『めがねうさぎのクリスマスったらクリスマス』(2002年)
- 『めがねうさぎのうみぼうずがでる!!』(2005年)
余談ではありますが、『めがねうさぎ』は春のお話、『おばけのてんぷら』は秋のお話だったため、20年以上経ってから新作を発表する際に、夏と冬のお話を担当編集者の方がお願いし、後の2冊のお話ができたという経緯があります。
『おばけのてんぷら』はどんな子におすすめ?
材料を買いに行く場面やてんぷらを作る場面があるので、「料理に興味がある子」や「食べることが大好きな子」におすすめの絵本です。
「おままごと」や「お店屋さんごっこ」、「お買い物ごっこ」が好きな子は特に気に入ってくれるのではないかと思います。
また、せなさんの息子さんのように「妖怪」や「オバケ」が大好きな子も夢中になってくれると思います。
保育士が考える『おばけのてんぷら』の魅力
せなさんが実際に子育てをされている中で出来上がった作品ということもあり、子ども達の生活にスッと馴染むような感覚があります。
実際に私の娘はこの絵本を読んでから家で天ぷらを揚げていると「おばけが食べにきちゃうかも」とニコニコ笑っています。
おばけが来ることは現実にはないのですが、私もちょっとそれを期待してしまうような自分の生活に延長して想像力が豊かになる楽しい作品です。
また、戦争を体験されて「どんなものでも大切にする」というお人柄だというせなさんが、捨ててしまうような紙に新たに役割を与えられて出来上がった絵本は、それだけでも大きなメッセージを受けているように私は感じます。
そうした気持ちを汲み取りつつ、絵本を開いて「これは一体何の紙だったのかな?」と子どもと想像するのもとても楽しいです。
私たちの身近にあるものの楽しさ、大切さ、美しさを改めて感じることができる『おばけのてんぷら』にはそうした魅力が詰まっていると私は思います。
『おばけのてんぷら』は見えない部分まで愛情深い作品
いかがでしたか。今回はせなけいこさんの作品『おばけのてんぷら』についてご紹介させて頂きました。
まだ手にとったことがない方も、既に読まれている方も、捨てられるはずだった紙が使用される貼り絵の技法や、主人公のめがねうさぎへの想いなど作品の背景を知ると見方が変わると思います。
『おばけのてんぷら』はせなさんの見えない愛情がたくさん詰まった作品です。
子育て体験から生まれたという作品ということもあり、子ども達もとても楽しんで読んでくれるので気になる方はぜひ手にとってみて下さい。
(参考資料)
※1【連載】せなけいこさん 絵本作家デビュー50周年おめでとう! せなさんを囲む人たちインタビュー
https://www.ehonnavi.net/style/1321/
※2 愛されて40周年! 「めがねうさぎ」シリーズ せなけいこさん インタビュー
https://www.ehonnavi.net/specialcontents/contents.asp?id=183
ポプラ社
https://www.poplar.co.jp/