親子二代で読み続けられていることも多い絵本『おしいれのぼうけん』という作品をご存知でしょうか。1974年に出版され、表紙が黒々とし、ページ数は80にも及ぶ異彩を放つ作品ですが、今でも必ずと言っていいほど図書館の児童書コーナーに並んでいる人気の高い作品です。
今回は40年以上子ども達の心を惹きつける絵本『おしいれのぼうけん』の誕生秘話や作者、対象年齢、見どころなど保育士の私から詳しくご紹介させて頂きます。
『おしいれのぼうけん』の作者はアパートの1階と2階の住人!?
『おしいれのぼうけん』の作者は古田足日(ふるたたるひ)さん、絵は田畑精一さんが担当しています。
古田さんは1927年愛媛県生まれ、早稲田大学露文化を中退しています。絵本作家としてだけでなく、児童文学の評論家としても活躍されていました。
古田さんのお父様は毎月書籍を多く購入する家だったそうで、子ども達のために『日本児童文庫』『小学生全集』『世界童話大系』を全て揃えたと言います。児童文学の仕事をするずっと前から本に囲まれて育ったようです。
一方、田畑さんは1931年の大阪生まれ、京都大学を中退しています。原子物理学に興味を持って大学に入学したそうですが、朝鮮戦争が始まって大学が騒然とし、原子物理に疑問を抱くようになったと言います。
その後、大学を中退して10年間人形劇の主に美術を担当し、古田さんとの出会いがきっかけで児童文学の仕事を始めました。
ちなみに、二人が出会ったきっかけというのがとても面白く、古田さんが引っ越したアパートの2階に住んでいたのが、なんと田畑さんご夫婦だったそうです。
「お二人がまだ若くて貧乏だった頃、同じアパートの上と下の階に住んでらしたそうなのです。お二人の奥様同士がお友達で、一緒に忘年会をやったりして交流をされていたのね。」(※1)
『おしいれのぼうけん』の編集を担当した童心社の酒井京子さんがお話されています。
『おしいれのぼうけん』を作った古田さんの先見の目がすごい
実は『おしいれのぼうけん』の誕生のきっかけは意外なもので、童心社で編集をしていた酒井さんが「自分がこれからどんな本を手がけていったらいいか」という悩みについて古田さんに意見を求めたことでした。
既に絵本作家としてだけでなく、児童文学の評論家としても活躍していた古田さんはその気持ちを察し、当時の絵本に欠けているものについてこんなことをお話されたそうです。
以下、酒井さんのインタビューの抜粋ですが今から40年以上前から考えていた古田さんの先見の目には驚きます。
ひとつは、異年齢の子どもたちが自然の中で、集団で遊んでいる絵本がないということ。(中略)もうひとつは、子どもたちの生き生きした姿を伝える絵本がほしいということ。それから、これからは女性も外へ働きに出る時代になるだろうから、保育園を舞台にした作品があると良いということだったのです。(※1)
そして、この意見を持ち帰った酒井さんはこんな素晴らしいことを絵本にできるのは古田さんしかいないと思い立ち、改めてお願いしに行ったといいます。
一度は自分にできないと断っていた古田さんですが、その後、田畑さんに絵を描いてもらうことを条件に仕事を引き受けてくれたそうです。
その後、3人は実際に保育園に取材に行って『おしいれのぼうけん』という絵本を制作するに至りました。
『おしいれのぼうけん』あらすじ、対象年齢、みどころなど
『おしいれのぼうけん』の作者や誕生秘話について分かったところで、ここからは作品の内容について詳しくご紹介していきます。
『おしいれのぼうけん』のあらすじ
さくら保育園である日のお昼寝の前に、さとしとあきらはミニカーを取り合ってけんかをします。何度注意しても話を聞かなかった二人は先生に𠮟られて暗いおしいれの中に入れられてしまいます。
しかし、半べそになりながらも二人はなかなか「ごめんなさい」を言いません。あきらが諦めそうになった時も、二人は手を繋いで頑張ります。
するとそこからねずみばあさんが住む地下の世界の冒険が始まっていきますーーー。
と、こういった形で冒険が始まっていきます。小さな二人が一生懸命に頑張る姿はとってもドキドキします。
二人は無事に保育園のおしいれに戻れるのか、ねずみばあさんから逃げられるのか…ぜひ作品を読んで確かめてみて下さい。
『おしいれのぼうけん』の対象年齢
出版元である童心社のHPを確認したところ「3歳~」と掲載されていました。私も実際に読んだことがありますが、絵本のページ数としては異例の80ページという長めの作品なのである程度集中力が必要です。
我が家でも現在4歳になった娘は最後までお話が聞けますが、2歳の息子は途中で集中力がまだ途切れてしまいます。
やはり3歳以降が適当であり、1、2歳のお子さんには向かない絵本です。
ただ、この絵本は他の絵本と違って、小学校低学年くらいのお子さんでも楽しめます。話の展開を最後までしっかりと追い、心の変化なども感じ取れるようになると違う形で楽しめるようになるからです。
絵本から本へのステップアップとしてもぜひおすすめしたい絵本です。
『おしいれのぼうけん』の読み聞かせの所要時間
私が実際に読んで「約20分」でした。80ページという非常に長い作品ですので、前半と後半などで何回かに分けて読んであげても良いと思います。
『おしいれのぼうけん』にシリーズはある?
『おしいれのぼうけん』のシリーズや続編はありませんが、古田さんと田畑さんが二人で書いた作品は他にもあります。参考までではありますがご紹介します。
<絵本>
- モグラ原っぱのなかまたち
- ダンプえんちょうやっつけた
<紙芝居>
- せかい一大きなケーキ
- ロボット・カミイ シリーズ
- ロボット・ロボののぼりぼう
どれもお二人が組んで書かれた作品ですが、田畑さんの絵が作風によって変化するのがとても面白いです。
興味がある方はぜひこちらもご覧になってみて下さい。
『おしいれのぼうけん』はこんな子におすすめ
絵本はどちらかと言うと女の子の方が興味を持つことが多いですが、こちらの作品は男の子にも非常に人気のある作品です。
特に、探究心が強い子やヒーローごっこが好きな子におすすめです。
また、実際に保育園に通っているお子さんなら、お母さんと離れている時間や絵本に出てくる押入れのようになんとなく不気味な場所について思い当たることが多いと思うので、とても楽しめると思います。
ただし、子どもが読んで欲しいと言ってくるなら大丈夫ですが、怖がりな子は苦手な作品ですので子どもによっては見極めが必要です。
実際、筆者の主人はこの絵本が大好きだったそうですが、私は怖がりだったこともありこの作品は怖くて読めなかったと記憶しています。
親が「面白いから!」と無理に読もうとしたり、怖がるような読み方は止めてあげて下さいね。
『おしいれのぼうけん』のみどころは
ねずみばあさんに何度追いかけられても手を繋いで頑張る二人は、見ている側がおもわず応援したくなります。
そして、最初はミニカーの取り合いの延長で友達の手や足を踏んでしまう二人ですが、おしいれの中の冒険を経て成長する姿がとても心に残ります。
また、大人の私たちも「子どもの成長に必要なのはなにか?」ということを考えるきっかけにもなる絵本です。
当時の保育園で使われていた画用紙と鉛筆、そしてクレパスで描いたという田畑さんの絵にもぜひ注目してみて下さい。
絵本『おしいれのぼうけん』は子ども達の勇気を信じる作品
今回は40年以上のロングセラー絵本『おしいれのぼうけん』についてご紹介させて頂きました。作者の二人が同じアパートに住んでいなければこの作品ができることはなかったのかなと思うと不思議な縁を感じる作品です。
『おしいれのぼうけん』は大人が子どもを導くというシーンがありません。子ども達が子ども達の力で困難を乗り越え、怖さに立ち向かうその姿を読者はハラハラしながら読み進めていきます。
筆者も『おしいれのぼうけん』を読むといつも“子ども達を成長させるには何が必要なのかな”ということを考えさせられます。子どもの間違いを指摘するのではなく、子どもの勇気を信じることが子どもを成長させるのだと私たち大人に教えてくれる作品でもあります。
お子さんにちょっと勇気を持ってもらいたい時、親御さんがお子さんの力を信じたい時、ぜひ『おしいれのぼうけん』を読んで親子の絆を深めてみて下さい。
参考資料)
※1『おしいれのぼうけん』誕生のひみつ 担当編集者酒井京子さんインタビュー
https://www.ehonnavi.net/specialcontents/interview/20120628/detail02.asp
※2 童心社
https://www.doshinsha.co.jp/